詩集と死臭-06.

「とりあえず、まあお話をしましょう不法侵入者さん」
「不法侵入者とは失礼な。何の証拠があっての事ですか」
「証拠三分間クッキングー」
「捏造するな!」
 まあともかく、とけらけら笑いながらカンザシさんは話題を戻した。
 
「侵入者さん――うん、長いのでにゅーちゃんと呼ぶことにしましょう――私は警備として、貴方の話を聞く必要があるわけです」
「それより何でわざわざにゅーちゃんと呼ぶのかの説明から欲しい所ですが、私も心の中で貴方をカンザシさんと呼んでいるし、大体そんなつっこみしてしんちゃんとか呼ばれても納得はいかないので華麗にスルーを選択します」
「私は警備として、貴方の話を聞く義務がありますし、権利があります」
 華麗にスルーを不言実行しつつ、カンザシさんは言う。

「まずは自己紹介からどうぞ。それから目的――何をしに来たのかをおっしゃって貰えると助かりますね」
「私の名前は氷室和です。氷の部屋に平和の和でアイと読みます。性別は見ての通り女、年齢はお約束通りに秘密。恋人はいませんし友人は多い方じゃないですが、まあ毎日幸せです。最近のもっぱらの悩みは同居人の神経質さと食事の偏り。えーっと後ですね」
「いやその辺で結構です。すみません自分でふっといてこういう事を言うのもあれですが、貴方の事って結構どうでもいいです」
「本当あれだな……」
「ここに来た目的をお話いただけますか?」
「目的――ですか」

 目的。目的。どいつもこいつもそんな物を何を至極大事に聞くのだろう、と目的を持たずふらふら動く女は逆恨みのような事を言ってみるのだった。大体私は馬鹿なので、一人で目的なんざ決められないのである。ここは私以外の人に聞く方がいいと思うのはいかがか、と脳内会議の提案に全会一致。とりあえず手始めにカンザシさんに聞いてみようかとも思ったのだけれど、聞いても答えてくれそうになかった。
 それは先ほどから順調にしまってきている私の首が教えくれているのだが。
 大して痛いとは思わないのだが、どうも息苦しい所を見ると割合まずそうである。
 生殺与奪は全てカンザシさんに握られている、という事で。
 まあ。

 だからどうした、という話ではあるけれど。

「ふむ。目的目的」
 考えるより聞くが安し。人の考え盗むに限る。何かそんな諺があった筈だ。

「やっぱ生活費稼ぎかな?」
 という訳で問いかけて見たのだが、答えを聞く前に首がしまって引き倒される。かえるの潰れたと形容するに相応しい音がなんと驚き私の喉から漏れた。文字にすると「ぐえっ」である。可愛げの欠片もない。

「もっと丁寧に扱おうよ!」
「煩え」
「……ちぇっ」
「何か不満なのか」

「首が絞まったら死ぬだろうが!」

 まあ勿論、良識ある大人の私は、会って数時間の相手にこんな言葉遣いはしない訳で。
 会話の相手は勿論、数年来の同居人。

 突然振ってきた我が愛すべき同居人は、相変わらず無表情に、生物への憎しみを込めてカンザシさんを踏みつけていた。人間代表カンザシさんが床に押し付けられたお陰で鎖で繋がれていた私も床に転がったという構図である。
 そんな状況確認をしていたら、ケイに思い切り蹴られた。

「馬鹿が」
「ごめんなさい……でもせめて平手で叩くぐらいにして欲しいよ……」
「反省してんのかそれは」
「してますよ。とっても」
 まあありがたいとは思ってないけどね。舌打ちが聞こえる。

「ごめんね?」
「いい。もういい。黙れ」

 何も込められていない、演技のようなため息。与えられた配役を確認し、私は言う。

「遅いぜヒーロー」

「…………」
 また蹴られた。